愛着採用とは何か──二重過程理論で読み解く、中小企業が大手に勝つ採用戦略

公開日: 2026-07-08 / 執筆: 株式会社アスナロ(採用代行「フルサポ採用」運営・累計250社支援)

「いい人に会えないんですよね」
「うちみたいな知名度のない会社だと、どうしても大手に取られてしまって」

採用の相談を受けていると、この2つの言葉を本当によく聞きます。

でも、現場を細かく見ていくと、事実は少し違います。
多くの中小企業は「いい人に出会えていない」のではなく、「出会った人に選ばれていない」のです。

この記事では、その「選ばれない」を「選ばれ続ける」に変えるための考え方──私たちが「愛着採用」と呼んでいる採用フレームワークを、できるだけ現場目線で解説します。理論の話だけで終わらせず、明日の面談から使える粒度まで落とし込みます。

なお、この「愛着採用」という考え方は、本日2026年7月8日にプレスリリースとして正式に提唱を開始しました(リリースは記事末尾にリンクします)。リリースが「発表」だとすれば、この記事は「使い方の説明書」です。


そもそも、いまの採用市場で何が起きているのか

まず、私たちが戦っている市場の現実を数字で確認します。

読み解くとこうなります。

学生は平均2.5社の内定を持ち、その6割超を辞退している。つまり「内定を出す」ことと「入社してもらう」ことの間に、大きな川があるということです。そして、たとえ入社してもらえても、3人に1人は3年以内に辞めていく。

母集団を集める力ではなく、出会った一人に選ばれ、入社後も熱量を保ってもらう力。いま採用で問われているのは、こちらです。知名度や給与で大手に正面から挑めない中小企業ほど、この課題は切実になります。


愛着採用とは何か──人は「感情」で選び、「論理」で納得する

ここで「愛着採用」の中身に入ります。

愛着採用とは、候補者が抱く「愛着」(共感・親しみ・好意)を採用プロセスの起点に据える考え方です。

根っこにあるのは、行動経済学の二重過程理論です。難しく聞こえますが、中身はシンプルです。人の頭の中には2つの思考モードがある、という話です。

思考モード 特徴 採用での意味
システム1(速い思考) 直感的・感情的。最初にやってくる 「なんかこの会社いいな」の入口。第一印象が命
システム2(遅い思考) 分析的・論理的。あとからやってくる 「やっぱり正しい選択だ」と自分を納得させる材料

順番が大事です。人はまずシステム1(直感)で「好きかどうか」を決め、そのあとでシステム2(論理)で「その選択が正しい理由」を後づけで探します。

採用に当てはめると、こうなります。

候補者は「成長できるから」「給与がいいから」という理由で会社を選んでいる“つもり”でいます。でも実際は、「なんかこの会社、好きだな」という感情が先にあって、そのあとで理由を探していることがほとんどです。

だとすれば、私たちがやるべきことは決まります。
感情の入口(システム1)を丁寧に設計し、その好意を裏づける論理(システム2)を用意する。 この順番で候補者の心を動かすのが、愛着採用です。

従来の採用と並べると、違いがはっきりします。

観点 従来の採用 愛着採用
勝負の土俵 知名度・給与・福利厚生 候補者が抱く共感・親しみ(愛着)
意思決定の捉え方 条件を論理で比較して選ぶ 直感(好意)が先、論理は後づけの裏づけ
施策の重心 母集団形成・スカウト量 一人ひとりとの接触の質・想起の積み重ね
面接の役割 見極め(ジャッジ) 気づきの提供(CanからWillを引き出す)
ゴール 内定承諾 入社後も続く熱量・定着

知名度も予算も、感情の入口づくりには必須条件ではありません。だからこそ、愛着採用は中小企業にとって現実的な武器になります。


愛着はどう育つのか──「種 → 醸成 → 確定」の3フェーズ

では、その愛着を具体的にどう育てるのか。私たちは採用プロセスを3つのフェーズに分けて設計します。

フェーズ1:愛着の種(速い思考を刺激する)

説明会・初回面談・スカウト。候補者と最初に接触する場面で、感情のひっかかりをつくります。

ここでのゴールは、候補者の中で「他人事」を「自分事」に変えること。具体的には、次の3つの観点で語ります。

  1. メリット:「あなたにとって、この会社はこう役立つ」
  2. ビジョン:「私たちはこんな未来を目指している。この夢、いいと思いませんか?」
  3. ヘルプ:「実はいまこういう課題があって、あなたの力を借りたい」

意外に効くのが3つ目の「ヘルプ」です。完璧な会社を演じるより、「あなたが必要だ」と正直に伝えるほうが、人は自分事として受け止めます。 「自分でもやれそう」「必要とされている」という感覚が、愛着の種になります。

フェーズ2:愛着の醸成(想起を積み重ねる)

面接・座談会・こまめな連絡。ここでやることは、候補者の心の中で自社が思い出される回数と質を増やすことです。私たちはこれを「心のPV(ページビュー)」と呼んでいます。

愛着のある場所や人には、必ず「思い出」があります。そして思い出は、1回や2回ではつくれません。回数の積み重ねでしか生まれないのです。だから、こまめな連絡、候補者ごとにカスタマイズした情報提供、合否通知への一言フィードバック──こうした地味な接触の一つひとつが効いてきます。

特に面接の設計が肝心です。理想は、候補者にこう言われる面接です。

「面接っぽくなかったんですよね」

これは醸成が成功しているサインです。見極める場ではなく、候補者に「気づき」を返す場にする。具体的には、候補者の経験やスキル(Can)を丁寧に聴き、そこから「あなたはこういうことにエネルギーが湧く人ですね」というポテンシャル(Will)を提示します。

自分でも気づいていなかった自分の可能性を、面接官が言語化してくれた。この体験が「この会社は自分をわかってくれる」という愛着に直結します。

フェーズ3:愛着の確定(クロージング)

内定前後の最終局面。ここでは、育んだ愛着を入社の意思決定に変えます。

大切なのは、候補者が「自分はこの会社でこうなりたい」と、自分の言葉で語れる状態をつくること。私たちはこれを「マイビーイング」と呼びます。

内定者は必ず、周囲から聞かれます。「どこ行くの?」「なんでその会社にしたの?」と。そのとき自分の言葉で誇らしく答えられるかどうか。マイビーイングが明確な候補者は、他社に揺さぶられても戻ってきます。 最後の最後まで体験の演出にこだわる理由は、ここにあります。


なぜ中小企業ほど、愛着採用が効くのか

「理屈はわかった。でも大手のほうが有利では?」と思われるかもしれません。実は逆です。愛着採用は、中小企業のほうが圧倒的にやりやすいのです。理由は3つあります。

  1. 距離が近い。母集団が数千人の大手と違い、中小企業は候補者一人ひとりと深く接触できます。「心のPV」は、この密な接触からしか生まれません。
  2. 意思決定が速い。「この候補者にこう返そう」を、稟議を通さずその場で判断できます。愛着の醸成はスピードとこまめさが命です。
  3. 経営者や現場が直接出られる。候補者にとって、社長や現場のエースが本気で口説いてくれる体験は、大手では得がたい特別なものになります。

大切なのは、施策の前に「持つ → 接する → 伝播する」という順番です。

Step 主語 すること
Step1:持つ 採用担当 まず自社に愛情を持つ
Step2:接する 採用担当 候補者に愛情を示す
Step3:伝播する 候補者 自社に愛情を感じる

愛情は伝播します。 採用担当者自身が自社を好きでなければ、候補者がその会社を好きになることはありません。ここが全ての出発点です。


数字でも、愛着採用は効いている

考え方だけでなく、実際の成果も出ています。

いずれも、知名度や条件で勝負したわけではありません。候補者体験の設計と動機形成に注力した結果です。

参考までに、新卒採用の内定承諾率は全体平均で53.6%(2025年卒・12月時点/従業員1,000〜4,999人規模では49.5%)です(人事の教科書 by ABABA「2025年卒 内定承諾・辞退実態調査」)。前述のIT企業が到達した76.7%は、大企業平均の59.1%をも上回る水準になります。


まとめ

長くなったので、要点を3つに絞ります。

採用に特別な予算や知名度は要りません。要るのは、目の前の一人に本気で向き合う設計です。「いい人に会えない」と感じているなら、まず「出会った人に、うちは選ばれているか?」と問い直すところから始めてみてください。


関連リンク・ご相談

■ 本記事の背景となる「愛着採用」の正式な提唱内容は、2026年7月8日配信のプレスリリースにまとめています。
→ 【プレスリリース】内定辞退率63.9%時代へ。株式会社アスナロが採用理論「愛着採用」を提唱

■ 「愛着採用を自社の採用にどう組み込むか」を一緒に設計したい方へ。
私たち株式会社アスナロは、採用戦略の設計から候補者体験の構築、面接官育成、内定者フォローまでを一気通貫で伴走する採用支援「フルサポ採用」を提供しています。まずは自社の採用のどこに“感情の入口”をつくれるか、無料の相談から気軽にお声がけください。
→ 株式会社アスナロ https://asnalo.com

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